〈食と美と健康〉 栄養と脳との関係:栄養神経科学の大切さ

生体内でエネルギー源として利用されるのは、炭水化物、脂肪、タンパク質などであり、多くの臓器ではこれら全てを利用できるのに対し、脳は基本的にはグルコースしか利用できない。また、脳のグルコース消費は大きく、例えば安静時の各臓器別のエネルギー消費量を比較すると、脳は体重の2%程度の重量であるにも関わらず、体全体のエネルギー消費量の20%弱を消費する。骨格筋は体重の約50%を占めているが、エネルギー消費量は脳とほぼ同じである。特に、出生直後の新生児の場合、脳のエネルギー消費量は生体の全エネルギー消費量の約半分にあたる。このことから、脳は多くのグルコースを必要とし、エネルギーを消費していることがわかる。なぜ、脳がこれほど多くのエネルギーを消費するのかは明らかでないが、脳は睡眠時も休むことなく機能する高次の情報中枢器官であり、電気化学的活動や分子レベルでの活動、また、精神活動などにもエネルギーを必要としている。消費エネルギー量の約80%はナトリウムイオンやカリウムイオンを能動輸送するイオンポンプが消費すると考えられている。また、グルコースはエネルギー源としてだけでなく、脳内神経伝達物質のアセチルコリンなどの合成にも素材として利用される。
摂取されたグルコースは、比較的速やかに代謝利用されるが、利用されなかったグルコースは、体内で貯蔵型のグリコーゲンとして、主に肝臓と骨格筋に蓄えられる。そして、グルコースが必要なときに、グリコーゲンは一連の酵素群により分解され供給されるが、骨格筋では変換酵素の一つが欠損しているため利用できず、重要なのは肝臓のグリコーゲンである。血液中のグルコース濃度(血糖値)は、ほぼ一定に保たれているが、これは脳への絶え間ないエネルギー供給が必要だからである。それ故、脳のグルコース消費量は、成人の場合一日当たり約120gといわれる。

グルコースやグリコーゲンは脳に蓄えることができないため、また、グリコーゲンとしての体内の貯蔵量にも限りがあるため、血糖値が著しく低下しないように、食事から炭水化物を摂取しなければならない。効率よくエネルギーを供給するには、一日に三度の食事を摂る必要がある。また、脳のエネルギー消費量の高い子供においては、食事だけでなく、適度な間食を摂ることも必要である。神経細胞において、グルコースから効率よくATPを生成するには、ビタミンB1、ビタミンB2、ニコチン酸などが必要であり、バランスの良い食事を心がける必要がある。
以上、食べ物と脳との関係はエネルギー源の必要性だけでなく、脳内で重要な役割を果たしている神経伝達物質・神経ホルモンなどの生成もすべて、食餌に起因している。この様に、食事内容と脳機能(記憶や睡眠など)との関連を解析する栄養神経科学の分野は、超高齢社会や高ストレス社会で生じている様々な問題解決のためにも必要である。お茶の効能についても、この観点から取り組んだ。
静岡県立大学名誉教授
農学博士 横越英彦 著
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