〈食と美と健康〉 MITメモランダム(その2):栄養神経科学の基盤・神経伝達物質の変動・R.J. Wurtman

Wurtman(ワートマン)の研究室には、中国、韓国、チェコスロバキア、ドイツ、オーストラリア、イタリア、メキシコ、ロシアなど、多くの国や大学・研究機関から研究者が来ており、私も多くの方と知り合う良い機会を得ました。
私は、栄養条件と血中アミノ酸の変動機構を研究していた。WurtmanとFernstromが、アミノ酸のトリプトファンをラットに投与し、脳内セロトニンが増加することなどを報告していたのに強い関心を持った。すなわち、高度の神経活動を担っている脳が、食餌の影響を受けるということである。また、食餌タンパク質の量的違いによる血中アミノ酸濃度(組成)の変化と脳内セロトニンの変動に強い興味を持った。すなわち、食餌のタンパク質量が少ない時と多い時とでは、脳内セロトニン量が大きく変化し、それは、タンパク質が少ない時に脳内セロトニンが増加し、逆に多い時には低下するという結果であった。血中のアミノ酸量は、当然、食餌タンパク質量が多い時に多くなる。脳内のセロトニンは、脳内のトリプトファンから合成されるので、食餌タンパク質が多い時には、血中のアミノ酸も増加し、脳内のアミノ酸も増えるのではないかと考えられる。それ故、セロトニンの合成も増えるのではないかと思われるが、結果は、減少した。これを説明するには、血中アミノ酸の脳への取り込みに関わる血液脳関門を考えねばならない。

脳には、独特なアミノ酸輸送システム(血液脳関門)があり、各アミノ酸は血中に多くあれば多く入るのではなく、ホテルの回転ドアのように制御されている。いくつかのアミノ酸は同じ輸送系で取り込まれる。すなわち、回転ドアでお互いに拮抗して取り込まれる。セロトニンは、トリプトファンから合成されるので、その脳内への流入が重要である。アミノ酸の動態を考えてみよう。まず食餌タンパク質が多ければ、血中のアミノ酸(トリプトファン)も増える。血中トリプトファンが脳に来た場合、血液脳関門を介して脳へ取り込まれるが、トリプトファンと拮抗するアミノ酸も同時に多量に流れ込むので、トリプトファンは相対的に脳へは取り込まれにくくなる。結果、脳内のトリプトファンは減少し、セロトニンの合成も低下する。私は、この食餌タンパク質の量的・質的変化による血中・脳内アミノ酸量の変化などを詳細に検討し、血液脳関門の重要性を明確にした。
食事やストレスなどにより血中アミノ酸は容易に変化し、血液脳関門を介して脳内アミノ酸の濃度や組成も変化し、それに起因する神経伝達物質も影響を受ける。神経伝達物質は各種の行動(睡眠、記憶学習、情動など)制御に関わっており、高ストレス・超高齢社会では、脳の健全性の欠如による障害や犯罪・認知症などが増えており、食の改善によりQOL(生活の質)の向上が図られるのであれば幸いである。
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静岡県立大学名誉教授
農学博士 横越英彦 著
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