〈食と美と健康〉 MITメモランダム(その1):タンパク質栄養学の拠点・H.N. Munro

私は30代半ば(40数年前)に、文部省在外研究員として初めて留学する機会を得た。経費は、こちらもちですので、先方が許可すれば、どこへでも希望する所に行くことができた。新たな研究の幅を広げるか、あるいは、自身の研究を深めるためか、行先については随分考えた。その結果、自分がこれまで行ってきた研究内容に近く、また、著名な教授が揃っている機関を探した。研究分野を2つに絞り、一つはガンに関する研究であり、もう一つは、脳に関する研究でした。最終的に選択したのは、米国ボストンにあるマサチューセッツ工科大学・MITで、次に、どの研究室の門をたたくか考えました。
ボストンはマサチューセッツ湾の最奥、ミスティック、チャールズ両河の中心に広がった、アメリカで最も古い街の一つであり、また学園都市でもある。初期の頃のボストンの歴史はそのまま初期アメリカ史でもあるため、見どころも多い。チャールズ河―氷が張り詰め凍てついた冬、ヨットがぶつかりあうほど賑わう夏、四季折々の風情を的確に、しかも心の安らぎの場として提供してくれるこの大河―その河沿いにMIT(マサチューセッツ工科大学)は長々と横たわり、対岸にはボストンの街並みが一望できる。

これまで、アミノ酸・タンパク質栄養に関する研究をしており、特にアミノ酸インバランス時の体重の変化の原因として、体タンパク質の合成・分解機構を解析していた。当時、骨格筋タンパク質の分解を測定する良い手法はなかったが、MITのV.R. Young(ヤング)は、H.N.Munro(ムンロ)との共同研究で、3-メチルヒスチジンを測定する有用性を解明していた。私もその手法を利用した。 Munroは、「Mammalian Protein Metabolism」の著者として有名であり、高齢にもかかわらず活発に研究を進めていた。それ故、MITはアメリカ栄養学研究の一つの拠点として多くの分野の研究者を抱えていたが、その中に、神経内分泌学者のR.J. Wurtman(ワートマン)がいました。彼は、メラトニン*の発見でノーベル生理学医学賞を受けたJ. Axelrod(アクセルロッド)の右腕でもありました。メラトニン、セロトニンをはじめカテコールアミン、アセチルコリン等の神経ホルモン(脳内神経伝達物質)はアミノ酸代謝と関係しており、私は、Wurtmanの下で、これらを学ぶことにしました。それ故、最初に与えられたのは、ラットの脳のゴマ粒ぐらいの小さな松果体のメラトニン量の測定法の習得でした。(続く)
*メラトニン:大部分が脳内の松果体で産生されるホルモンで、必須アミノ酸のトリプトファンから合成されます。睡眠と覚醒リズムに深く関わり、体内時計や概日リズム(サーカディアンリズム)をコントロールする役割を果たします。
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静岡県立大学名誉教授
農学博士 横越英彦 著
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