〈食と美と健康〉健康とは:お茶を飲むゆとり

戦後の食糧難の苦労は、子供のころ親にも聞かされました。少しの食糧を分けてもらうために、田舎に着物などをもちこみ物々交換をしたそうです。戦後生まれの私にとっては、その苦難は知りません。その後、日本経済の高度成長とバブル前からそれ以降でも、食べ物を得られないという恐怖は殆どありませんでした。主食の米についても、極度の不作やオイルショックといわれる一時的な危機以外は、問題はありませんでした。しかし、最近のマスコミ情報により、満足に食べ物を摂れないという国民が相当数いることに驚きました。テレビ番組では、グルメ情報が溢れており、デカ盛りとか大食いを取り扱っているものが多いからです。一方では、朝食や昼食を満足に食べられない学童がおり、また、子供食堂が全国に多数存在します。子供食堂に大人も通わなければならない状況も生まれているなど、驚くべきことが起こっています。戦後の日本ではそんなことはなかったはずです。米が不足して高騰するとは。これは誰が何と言おうとも、すべて政治の貧困と将来的ビジョンのお粗末さに起因しています。
この様な生活環境の中でも、人々は健康で長生きしたいと願っています。それ故、マスコミやネットでは、健康情報があふれ、免疫力アップや腸活を狙った商品が宣伝され、コンビニやスーパーでも多くの健康食品が販売されています。世界保健機関(WHO)は、健康とは「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」にあることと定義しています。スポーツの世界でも「心技体」の重要性を説いています。この中で精神的・社会的とか心の健康とは何でしょうか。

正月には神社に参拝し、ご先祖様に手を合わせます。家に仏壇があれば、祖先を敬い、子や孫を思うお参りをします。これは、先祖から子孫をつないでいく絆のような心持です。少子高齢化の日本では、出生数の減少などが深刻ですが、その中でも沖縄県が比較的高い出生率をたもっています。沖縄で連想するのは、何かお祝い事があれば親類縁者、地域の方たちと一緒に食事をし、踊ったりしている情景であり、また、お年寄りと子供たちが楽しんでいる姿です。大切な家族との絆を絶やさない、日頃の心の持ちようがあるのではないでしょうか。特に年の初めには神社にお参りをし、健康を祈願したりしますが、その「敬う心」が心を整え、ストレスを和らげます。このような感謝の気持ちはストレスホルモンの抑制や免疫力の向上にも関係しています。このような心の穏やかな満足度は、お参りした後の爽やかさによりますが、私たちは、香りのよい美味しいお茶を飲んだ時にも感じます。ゆったりとお茶を飲むときには、ストレスも軽減され、精神的にも心の面でも、同じような健康に良い効果があるのではないでしょうか。
静岡県立大学名誉教授
農学博士 横越英彦 著
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